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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第32章 第十三話 【花残り月の再会~霞桜~】 其の壱
 「花がすみ」に勤め始めて十日ばかりが経ち、お彩は毎朝、近くの長屋から通ってきている。昼間は大抵、お美杷は背に負うているか、眠っているときは二階の部屋に寝かせていた。その部屋は二階にあり、喜六郎の寝起きする居間の隣に位置している。嫁ぐまでは喜六郎の一人娘小巻が使っていた部屋でもあった。「花がすみ」は二階家だが、二階にはこのふた部屋しかない。
 普段、喜六郎は暇な時、よくお美杷を構ってやった。喜六郎には既に二人の孫がいる。日本橋の仏具屋「大和屋」の跡取り伊兵衛に嫁した小巻は、五歳の敬次郎、三歳のお伊久と二人の子に恵まれている。が、小巻の良人伊兵衛は遊び人で、吉原の遊廓に馴染みの女郎がいて、これが長男の敬次郎を小巻が身ごもっている頃から続いている仲であった。
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