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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第33章 第十三話 【花残り月の再会~霞桜~】 其の弐
一日が過ぎた。喜六郎は言葉どおり、その日一日、お美杷を探して足を棒にしてあちこちを歩き回っているようだ。そろそろ喜六郎にも文のことを伝えた方が良いだろう。
お彩はその日の夕刻、和泉橋のたもとで川面を見つめながら、そんなことを考えていた。
そろそろ長くなってきた春の陽も傾き始めていた。緩やかに流れているように見える川は実は存外に流れが速い。この界隈は江戸の外れになり、かつては母お絹が夜泣き蕎麦屋の屋台をよく出していたという。名も知られぬ小さな川にかかる橋は和泉橋と呼ばれ、江戸の人々から親しまれていた。丁度、今、お彩が立っている橋のたもとからは、立派な武家屋敷が見える。ここが投げ文に記されていた松平越中守の上屋敷だというのは、何とも皮肉な話であった。
お彩はその日の夕刻、和泉橋のたもとで川面を見つめながら、そんなことを考えていた。
そろそろ長くなってきた春の陽も傾き始めていた。緩やかに流れているように見える川は実は存外に流れが速い。この界隈は江戸の外れになり、かつては母お絹が夜泣き蕎麦屋の屋台をよく出していたという。名も知られぬ小さな川にかかる橋は和泉橋と呼ばれ、江戸の人々から親しまれていた。丁度、今、お彩が立っている橋のたもとからは、立派な武家屋敷が見える。ここが投げ文に記されていた松平越中守の上屋敷だというのは、何とも皮肉な話であった。