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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第33章 第十三話 【花残り月の再会~霞桜~】 其の弐
「お前が江戸からいなくなって、私がどれほど後悔したか知っているのか? 何故、あの時、伊勢次の家にお前を迎えに行った時、一緒に連れ帰らなかったのかと随分後悔したんだぜ。慌てて八方手を尽くして行方を探し回ったが、それこそ霞か霧のようにお前はいなくなっちまった」
お彩は何も応えなかった。応えられるはずがない。市兵衛に掴まれた肩が痛かった。いや、市兵衛は、けして力を込めて肩を掴んでいるわけではない。二度と逢うまいと決めていた男の手を振りきれないでいる自分の弱さに、心が痛むのだった。
頑なに黙り込むお彩に、市兵衛は吐息をついた。
「―子どもは無事に生まれたんだな」
お彩は何も応えなかった。応えられるはずがない。市兵衛に掴まれた肩が痛かった。いや、市兵衛は、けして力を込めて肩を掴んでいるわけではない。二度と逢うまいと決めていた男の手を振りきれないでいる自分の弱さに、心が痛むのだった。
頑なに黙り込むお彩に、市兵衛は吐息をついた。
「―子どもは無事に生まれたんだな」