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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第5章 第二話・其の弐
―其の弐―

 その夜のことである。花見の時季とあって、夜桜見物に繰り出す連中が何やら興奮した様子で声高に話しながら店の前を通り過ぎてゆく。やはり、その行き帰りに「花がすみ」に立ち寄ってゆく飛び入りの客も多く、この時期、小さな店はお彩一人では仲居が足りぬほど大忙しになる。
 折しも、現在、「花がすみ」の主人喜六郎の一人娘小巻が身重のため里帰りしているとあって、お彩の仕事は余計に増えていた。何しろ、〝だるい、気分が悪い〟と言っては一日中横になってばかりいるのだから、お彩が三度の飯もすべてこしらえて二階の部屋まで運んでやらねばならない。
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