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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第33章 第十三話 【花残り月の再会~霞桜~】 其の弐
 お彩は息を呑んだ。
「河津屋さんに鑑札を渡して下さるのですか」
 市兵衛はしばし、眼を閉じたまま思案に耽っていた。
 が、それはほんのわずかのことで、眼を開くと抑揚のない声で言った。
「松平様と言やあ、ご老中の要職にあり、時の幕閣においてもかなりの権勢をお持ちだ。将軍家の御親戚筋にも当たり、上様のご信頼も厚い。松平様にお出入りの鑑札は、遡れば、京屋の三代めの主が許されて以来、代々の当主が引き継いできたもの。それを私の代で理由もなく返上したとあっては、先代にも申し訳が立たねえが、この際、やむを得ねえ」
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