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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第34章 第十三話 【花待ち月の再会】 其の参 
 市兵衛はしばしの間、母子を静かに見つめていたが、やがて、背中を向けて踵を返し、そっと去っていった。
 お彩はハッとして、後ろを振り返った。見慣れたはずの広い背中が次第に遠ざかってゆく。叶うことならば、走って追いかけ、その孤独な翳の滲んだ背中を抱きしめたかった。
 けれど、それは所詮は見果てぬ夢。この男と自分が歩く道が交わることは、もう二度とない。身の丈のある市兵衛の後ろ姿が小さな橋を渡り、向こう側の町へと消えてゆく。小さな一つの橋に隔てられた、この二つの町は互いに「町人町」、「和泉橋町」と呼ばれ、相反する別世界である。商家ばかりがひしめき、活気溢れる町と、昼間でさえ、ひっそりと静まり返った武家屋敷町。
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