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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第35章 第十四話 【雪待ち月の祈り】
「いや、それが定次さん―若旦那は滅法な遊び人でしてね。【仁しな】の婿におさまるまでは猫をかぶってたって塩梅で。遊廓に入り浸りで、ろくに包丁の握り方すら知らねえようなお人でしたよ。あれでいっぱしの板前気取りだったっていうだから、笑わせますよ。旦那も見かねて、半年も経たねえ間に離縁になりました」
「それで、お嬢さんは、どうしなすった」
 喜六郎は苦々しげに言った。喜六郎の一人娘小巻の良人伊兵衛も絵に描いたような遊び人だ。小巻と所帯を持つ前から続いている吉原の女郎がいる。亭主の女癖の悪さに泣いてばかりいる娘のことを思えば、かつての奉公先の娘の不幸は他人事とは思えぬ喜六郎である。
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