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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第35章 第十四話 【雪待ち月の祈り】
 安五郎はまだ言葉の端々に上方訛りが残っているようだが、江戸の水に浸かって既に三十年近い喜六郎は生粋の江戸っ子のように喋る。
「申し訳ありません。別の店で働いていたものですから」
 と、安五郎は頭を下げた。
「お前は、今、どこで包丁を握ってるんだい」
「いや、相談っていうのは、そのことなんです。私は【三隅(みすみ)】で働いてたんですが、あそこがつい先月潰れちまいましてね」
「なに、三隅っていやァ、このお江戸広しといえども、名の通った割烹じゃねえか」
 喜六郎が感心したように言う。
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