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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第35章 第十四話 【雪待ち月の祈り】
 そのあまりの落胆ぶりに、喜六郎は思わず言ってしまっていた。
「まぁ、折角訪ねてきてくれたんだ。二、三日泊まって、ゆるりとしていきねえ」
「しかし―」
 安五郎の顔には躊躇いがありありと浮かんでいた。昔から、こういう男だった。実直で控えめな働き者、しかも板前としての腕も確かだ。欲を言えば、料理にもう少し艶(つや)のようなものが出れば良いと、喜六郎はその昔、「仁しな」にいた頃は、ひそかに思ったものだ。
 安五郎の作る料理は美味いし、見た目もいかにも京料理の雅さと繊細さを兼ね備えている。が、喜六郎に言わせれば、きれいだけれども匂いのない花、美人だが色気のない女のように見える。要するに、きれいで美味しいのだが、何かが足りないのだ。
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