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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第5章 第二話・其の弐
 娘に言い募られて弱り果てる喜六郎も父として情けないといえばいえたが、とにかく本当に真面目で人の好い男なのだ。その分、気が弱いという点は否めないのは致し方なかった。
「ああ」
 ホッとしたような喜六郎の声が上がった。
 お彩が障子を開けると、喜六郎は小さな床の間を背にして座っている。床の間には瀧を泳ぐ鯉の雄壮な図柄の掛け軸がかけられていた。
 お彩は住み込みで働いているわけではなく、通い奉公なので、二階まで来ることは普段は滅多とない。喜六郎の部屋に脚を踏み入れたのも初めてである。喜六郎の傍らには小巻が端座している。
 小巻の冷ややかな視線がお彩にじっと向けられていた。まるで刺すように鋭いまなざしには紛うことなく敵意が含まれている。
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