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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第36章 第十四話 【雪待ち月の祈り】 其の弐
 お彩がはだけた襟元を直していたときのことである。ふいに階下で声高に言い合う人の声が聞こえた。お美杷に乳を飲ませている最中、隣の部屋の障子が開き、喜六郎が階下に降りていく気配があった。何とか歩けるようにはなったのだろうと、その時は胸撫で下ろしたものだったのだが、喜六郎と安五郎が何か口論でもしているのか。
 やはり、安五郎に代わりに板場に入って貰ったのが喜六郎の気に障ったのだろうか。普段は穏やかで優しい喜六郎もこと店のことや料理のこととなると、人が変わったように一徹になる。それは気難しさというよりは、やはり職人ならではのこだわりだろう。
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