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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第36章 第十四話 【雪待ち月の祈り】 其の弐
 店の片隅に、安五郎が腕組みをした格好で立っていた。大柄なだけに、そうやって仁王立ちしていると、なかなかに威圧感がある。泰助は内心、安五郎の存在に不安を感じているようで、時折ちらちらと安五郎の方を窺い見ているようだ。
 他に客の姿はない。
「お内儀(かみ)さん、お久しぶりでございます」
 泰助が立ち上がり、丁重に腰を折った。相変わらず、嫌みなほど丁寧な物言いだ。
「私はもう京屋さんとも京屋の旦那さまとも一切拘わりはない身にございます」
「何を仰せられます。世間では、まだお内儀さんはご病気のため、近くに湯治にゆかれているということになっております」
 泰助は座り直すと、ゆったりとした口調で言った。
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