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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第36章 第十四話 【雪待ち月の祈り】 其の弐
「俺にゃア、死んじまった女房との間に一人娘がいるにはいるが、とうに嫁に出しちまった。もとより、しがねえ一膳飯屋だから、俺一代で終わるのも構やしねえんだが、あの娘(こ)がここに勤めてもう五年以上になる。俺はその間ずっとその働きっぷりを見てきたが、あの娘には料理人としての才覚が自ずと備わってる。だから、一度は俺一代限りで閉めようと思っていた店をあの娘に託してみようと考えるようになったんだよ」
喜六郎は少し押し黙った。途端に浮かぬ顔になり、声を低めた。
「あの娘にはいろいろと深え事情があってな」
安五郎は喜六郎の言うように、勘の良い、飲み込みの早い質のようである。
喜六郎は少し押し黙った。途端に浮かぬ顔になり、声を低めた。
「あの娘にはいろいろと深え事情があってな」
安五郎は喜六郎の言うように、勘の良い、飲み込みの早い質のようである。