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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第36章 第十四話 【雪待ち月の祈り】 其の弐
「ああ、まァ、前の女房はとっくに病で亡くなってるから、その辺はたいした問題ではなかったが、京屋の旦那も奉公人上がりの身だから、おいそれと後妻を娶ることも叶わなかったんだろうよ。それが突然、お彩ちゃんを後に納(い)れるってえ言い出して、京屋では親類縁者まで巻き込んでの大騒ぎになった。マ、京屋に連なるご一統―つまるところ同業のお店(たな)の旦那衆、親戚筋の連中は京屋ほどの大店のことだから、釣り合いの取れた相応のお店から後添えを迎えて欲しいと言ったそうだ。が、市兵衛さんはそれを端から撥ねつけ、あの娘を女房にと頑として譲らねえ。それで、ひと騒動になっちまった。結局、それでも、市兵衛さんは最後まで自分の想いを貫き通して、あの娘を京屋に入れたのさ」