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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第38章 第十四話 【雪待ち月の祈り】 其の四
市兵衛は、六年前の秋の日、初めてお彩と出逢った日を思い出した。ただ商いだけにひたすら打ち込み、身代を先代のときより更に肥やし、「氷の京屋」と異名を取るほどになった。その頃には、もう市兵衛を誰も奉公人上がりの婿養子と表立って侮る者はいなかった。
それなのに、市兵衛の心は一向に満たされることはなかった。先代の命でお絹を諦めてまで一緒になった女房お市には裏切られ、先立たれ、市兵衛は孤独であった。店にいても、どこにいても、市兵衛の心が安らぐことはなかった。孤独に苛まれれば苛まれるほどに、その苦しさを忘れるために商いに没頭したが、苦しみが癒されることはなかった。ただ空しさだけを感じていた。
それなのに、市兵衛の心は一向に満たされることはなかった。先代の命でお絹を諦めてまで一緒になった女房お市には裏切られ、先立たれ、市兵衛は孤独であった。店にいても、どこにいても、市兵衛の心が安らぐことはなかった。孤独に苛まれれば苛まれるほどに、その苦しさを忘れるために商いに没頭したが、苦しみが癒されることはなかった。ただ空しさだけを感じていた。