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第38章 第十四話　【雪待ち月の祈り】　其の四　

　いや、お際のその素直で優しい気性をこそ、市兵衛は愛で、得がたいものだと思っていた。大きな瞳に明るい理知の光と一途なひたむきさを持つ娘がこれからも母として女として更に成長してゆくのを傍でずっと見守っていたいと思う。
　たとえ、お彩にどれだけ嫌われようとも、市兵衛は彼女をその手に取り戻そうとするだろう。とことん嫌われ、憎まれたとしても、お彩を我が手許に置いておきたいと思わずにはおれないのだ。
　最初は初恋の女お絹の娘としてしか認識していなかったお彩が、今では市兵衛にとっては、なくてはならない存在になっていた。お彩ほど全身全霊かけて愛せる女はもう二度と、市兵衛の人生において現れることはないだろう。それほどに、市兵衛にとって、お彩は得難い女であった。