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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第38章 第十四話 【雪待ち月の祈り】 其の四
「うちの店が京屋さんからお借りしている土地は、これまでどおりお借りさせて頂きます」
きっぱりとした物言いに、市兵衛は我を取り戻した。市兵衛としたことが、感傷に浸るあまり、我を忘れていたようだ。全く商人にとっては、あるまじき失態であった。
―それほどに、この女は自分を熱くさせる。
市兵衛は、眼前のお彩をもう一度、強い眼で見つめた。
凛としたまなざしは、雨や風にもけして倒れることのない強さを持つ花を彷彿とさせた。その瞳には揺るぎない決意が見て取れた。 お彩にとって、お美杷は、己れの生命にも等しき我が子だ。その愛盛りの娘を手放すのは、死ぬよりも辛いことだろう。さんざん迷い、心を千々に引き裂かれるほどの烈しい葛藤を繰り返したに相違ない。
きっぱりとした物言いに、市兵衛は我を取り戻した。市兵衛としたことが、感傷に浸るあまり、我を忘れていたようだ。全く商人にとっては、あるまじき失態であった。
―それほどに、この女は自分を熱くさせる。
市兵衛は、眼前のお彩をもう一度、強い眼で見つめた。
凛としたまなざしは、雨や風にもけして倒れることのない強さを持つ花を彷彿とさせた。その瞳には揺るぎない決意が見て取れた。 お彩にとって、お美杷は、己れの生命にも等しき我が子だ。その愛盛りの娘を手放すのは、死ぬよりも辛いことだろう。さんざん迷い、心を千々に引き裂かれるほどの烈しい葛藤を繰り返したに相違ない。