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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第39章 第十五話 【静かなる月】 其の壱
 かつて市兵衛の遣いで「花がすみ」に来た手代頭泰助の言葉がありありと耳奧でこだまする。お彩が京屋のご新造であった頃、何かと辛く当たったあの泰助でさえもが真顔で気遣うように言ったのは満更、脅しでも偽りでもなく、本心からの言葉だったのだ。
 市兵衛と知り合って、もう七年にもなろうとするお彩は、自分なりに市兵衛という男を理解しているつもりだった。だが、所詮、それは甘かったのだということが、今回の件で思い知らされる形となったのは確かだ。
 「氷の京屋」という呼び名は、何も酔狂でついたわけではない。取引にかけては緻密な計算をし、相手をとことんまで追いつめ自らはけして損はしない―、それが氷と異名を取る凄腕の商人(あきんど)京屋市兵衛という男の真実の姿であった。
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