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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第39章 第十五話 【静かなる月】 其の壱
今、市兵衛はどんな想いでいるだろう。あくまでも自分にはむかい、たてついた身の程知らずの女を所詮は浅はかな奴とあざ笑っているのだろうか。市兵衛ほどの計算高い男でさえ、まさかお彩がお美杷だけを手放し、自分は一人「花がすみ」に残るという選択肢を選ぶとは想像もしていなかったようだった。
あのときの市兵衛の驚愕と怒りの烈しさは、感情の読めぬ、静まり返った表情からは推し量ることはできないようにも見えたが、市兵衛という人物を知るお彩には判った。氷のように冷え切った瞳の底でめらめらと燃え盛っていた焔、あの蒼白い焔こそが市兵衛の怒りを表すものであり、京屋市兵衛は怒れば怒るほどに、裏腹に静まり返った湖のような不気味さを感じさせるようになるのだと。
あのときの市兵衛の驚愕と怒りの烈しさは、感情の読めぬ、静まり返った表情からは推し量ることはできないようにも見えたが、市兵衛という人物を知るお彩には判った。氷のように冷え切った瞳の底でめらめらと燃え盛っていた焔、あの蒼白い焔こそが市兵衛の怒りを表すものであり、京屋市兵衛は怒れば怒るほどに、裏腹に静まり返った湖のような不気味さを感じさせるようになるのだと。