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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第39章 第十五話 【静かなる月】 其の壱
非業の死を遂げた伊勢次の心中を思えば、お彩には到底市兵衛の許に戻れるものではない。それに、何より、まだ当のお彩が途方もなく大きな闇を抱える市兵衛に寄り添うだけの覚悟も勇気も持ってはいないというのが実状だ。
去年の秋、「花がすみ」の主喜六郎が板前の安五郎とお彩に「見合い」をさせようとした。その安五郎は言っていた。
―人は何でも大切なものを一つ選び取ろうとする時、他のものは捨てたり諦めたりしなきゃならねえときもあるんですよ。お前さんが今もまだ京屋の旦那に惚れてるというなら、お前さんはその気持ちだけを大切にして旦那の腕の中に飛び込んでゆけば良い。
去年の秋、「花がすみ」の主喜六郎が板前の安五郎とお彩に「見合い」をさせようとした。その安五郎は言っていた。
―人は何でも大切なものを一つ選び取ろうとする時、他のものは捨てたり諦めたりしなきゃならねえときもあるんですよ。お前さんが今もまだ京屋の旦那に惚れてるというなら、お前さんはその気持ちだけを大切にして旦那の腕の中に飛び込んでゆけば良い。