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第39章 第十五話　【静かなる月】　其の壱

　小巻はもう二十七にはなっているはずだが、今も変わらず臈長けた美しさである。この小巻は日本橋の大和屋という小さな仏具屋に嫁して、一男一女に恵まれているが、良人伊兵衛というのが札付きの遊び人、放蕩息子であった。
　小巻が長男敬二郎を身ごもり「花がすみ」に里帰りしている時分から続いている女郎が吉原にいて、今もまだ深い仲だという。あまりの女癖の悪さに一度は小巻が「花がすみ」に帰ってきたという事件まで起こったが、その後は亭主の遊興癖に泣かされつつも、小巻は健気ににも大和屋の嫁として奮闘していた。