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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第40章 第十五話 【静かなる月】 其の弐
 お彩は眼を見開いて、おとみを見つめた。
「きいさんの具合はどうだったんだね?」
 喜六郎とはもう三十年近い付き合いだとかいうおとみは、不安の色を濃く滲ませていた。
 喜六郎の言うように、おとみは他人が思うほどの性悪な老婆ではない。ただ、あまりに物をはっきりと言うので、周囲からは避けられてしまうのだ。
「それが、あまり良くないらしくて」
 お彩が曖昧な笑みで返すと、おとみは皺に埋もれた細い眼をわずかにしばたたいた。
「きいさんは私よりひと回り以上も若いってえいうのにねえ」
 お彩は、ぼんやりとした意識の底で、おとみの独り言めいた愚痴を聞いていた。が、次におとみが苦虫を噛み潰したような表情で言った言葉に、弾かれたように顔を上げた。
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