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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第40章 第十五話 【静かなる月】 其の弐
 土地選びも商いの大切な条件の一つだから、焦らず自ら足を運んでじっくりと選び抜いた。その上で現在の場所が借地として出ていることを知り、京屋の先代の主人を地主として、借り受けることになった。
 土地探しの間にも、喜六郎はけして遊んでいるわけではなく、塩売りをしていたという。塩売りは誰にでも容易くでき、元手や道具もたいして要らないので、てっとり早く始める商売としては打ってつけであった。富久三は、その頃に知り合った、塩売り仲間であった。歳は喜六郎よりは十は若いだろうという。
「私も富久三はよく知ってるけど、見かけは優男だから、若い時分は方々で紐紛いのことをしでかして、さんざん女を泣かせたものさ。くそ真面目なうちの亭主なんざァ、あいつを毛虫か何かのように毛嫌いしてたよ。
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