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第41章 第十五話　【静かなる月】　其の参

　昔の、お彩と知り合ったばかりの市兵衛は、こうまで取りつくしまのない男ではなかった。泣いたり笑ったりするごく普通の男―、その身の内に孤独や翳を抱えていても、感情表現は豊かであった。
　今の市兵衛は、氷というよりは、鋼(はがね)の冷たさと固さ―何ものをも寄せつけず、弾き返すほどの圧倒的な頑なさを持っているようだ。お彩は与り知らぬことではあったけれど、そんな彼がお美杷に接するときだけは、相好を崩して、微笑ましい父親ぶりを発揮するという専らの評判であった。
　当初、突如として出現したこの娘の存在は、京屋内でも京屋の親戚筋でもかなりの物議を醸したのだとか。