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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第41章 第十五話 【静かなる月】 其の参
 瘧にかかったように華奢な身体が震える。顔を見るのが怖い。うつむいたまま震えていると、客がお彩の肩に手をかけ、もう一方の手で顎をとらえた。
 そのままグイと仰のけられる形で見上げた視線の先には、京屋市兵衛がいた。―こんな場所では死んでも逢いたくないと思っていた男だった。よりにもよって、女郎に身を堕とした我が身が最初に迎える客がこの男だったとは、皮肉なものだとしか言いようがない。
 市兵衛が冷たい眼で真っすぐにお彩を見つめている。翳をはらんで冷ややかなまなざしがどことなく近寄りがたい印象であった。以前から彼の周りを取り巻いていた冷たい雰囲気が更に濃く強くなったように感じられる。
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