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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第6章 其の参
「泣かないでくれ、お願いだから。お前さんが泣いているのを見るのは、どうにも辛い。泣き顔を見ていると、どうしたら良いのか判らなくなっちまう」
 男がどこかおどけた口調で言う。お彩の気を少しでも引き立てようという気遣いだと判った。男はお彩の頬を両手で挟んだ。
「泣くな」
 深みのある魅惑的な声にいざなわれるように、つと顔を上げると、漆黒の夜を集めたような男の瞳が自分を見下ろしていた。ひとめで惹かれた、孤独を宿した瞳だった。春の宵の中、男の視線とお彩の視線が刹那、熱く混じり合った。
 お彩の鼓動が速くなる。頬が染まり、身体中が熱に浮かされたように熱くなった。が、お彩の心中を見透かすかのように、男は素早く両手を放し、お彩からわずかに距離を置いた。
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