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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第6章 其の参
「もうお逢いできないのかと思いました。あれから〝花がすみ〟にも来て下さらないんだもの」
 その代わりに出てきたのは、まるで何年も待たされた女が多情な恋人に囁くような恨み言めいたものになった。
「私はいつでも傍にいて、お前さんを見ているよ。だから、お前さんが哀しそうだったり、辛そうだったりしたら、すぐにこうして逢いにくるさ」
―いつでも傍にいて、お前さんを見ているよ。
 世慣れた女なら、男の言葉がその場限りのものだと疑いもしたし、本気にもしなかったろう。しかし、お彩はまだ十七の娘だった。 そして、男に惚れていた。何より、男の深い声には心からの労りと気遣いが感じられた。お彩の大きな双眸に涙の雫が宿った。
 涙の雫は、あたかも花びらの上に転がる露のように月の光を受けて冴え冴えときらめく。
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