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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第6章 其の参
確かに金子の無くなったとされる夜、私が最後に金庫の鍵をかけたのだが、本当なら丁稚風情が大切な金庫の鍵なぞ触れるものではない。それが様々な思惑と偶然が重なり番頭から手代へとめぐりめぐって、ついに私のところにその役目が廻ってきたのさ。たったそれだけのために、私はとんだ盗人扱いされる羽目になった」
 男は、はるかなまなざしで夜の闇を見つめている。いつしか淡い闇は、本格的な漆黒の夜へとうつろっていた。
「何ゆえ、私が盗人呼ばわりされたか判るかい?」
 その問いはお彩にというよりは、男が自分自身へと向けて発したもののように思えた。
 お彩がそっと首を振ると、男は笑った。先ほどの明るい笑顔ではなく、どこか自嘲めいた笑いだ。
「それは私が鋳掛け屋の倅だったからさ」
 そのひと言はお彩の胸を刺し貫いた。
「そんな―」
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