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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第42章 第十五話 【静かなる月】 其の四
 突如として、駕籠が止まり、お彩は愕いた。駕籠かきの男が戸代わりの筵を上げてくれたので、お彩はそっと地面に両脚を降ろした。
 すっかり暗くなった宵闇の底で響く、ひそやかな川の流れ、夜風にさわさわと揺れる樹の梢。
 しっくりと馴染みのある物音に、お彩は懐かしげに周囲を見回す。やはり、と思った。
 ここは江戸の町の外れ、和泉橋のたもとであった。市兵衛と二人で度々逢った想い出の場所でもある。宵闇の向こうに、老中松平越中守さまのお屋敷がうすぼんやりと浮かび上がっている。
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