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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第42章 第十五話 【静かなる月】 其の四
 その時。去ってゆく駕籠とすれ違いざまに逆方向からゆっくりと近づいてくる人影が見えた。
 段々と近づいてくる影がふいにぴたりと止まり、お彩とその影の主―京屋市兵衛は、しばし無言で見つめ合った。
 ほのかな月明かりに、男の端整な貌が映えている。穏やかな表情であった。
 どれくらい、そうしていただろうか。
 市兵衛が歩き出した。
 頬と首筋を撫でる夕暮れ刻の風がいつになく冷たく感じられるが、今はかえって、火照った頬に心地良い。
 梢を揺らし、塵をさらってゆくそのゆく方をぼんやりと眼で追いながら、ゆっくりと市兵衛の後ろを歩いた。
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