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第43章 第十六話　【睡蓮】　壱

　三國屋を訪れ、主人の浅助(せんすけ)に大枚を払い、お彩を身請けする段取りを整えた。その前夜、三國屋に上がった市兵衛は久方ぶりにお彩と膚を合わせることになった。
　この女が自分以外の男に抱かれているところを想像しただけで、気が狂いそうになった。「氷の京屋」と冷酷さでは知られている市兵衛を、お彩はこうも容易く惑乱させる。
　その夜、お彩は市兵衛に言った。
　自分は京屋で市兵衛の女房として暮らしていた頃、けして贅沢をしたかったわけではないのだ、と。たとえ貧しくても良いから、夫婦が笑い合ってその日一日の出来事を話せるような、ささやかな幸せが欲しかったのだ、と。