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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第43章 第十六話 【睡蓮】 壱
「旦那さま」
 少し先を行く泰助が警戒するような声を上げた。この男は市兵衛が丁稚として京屋に奉公していた時分の朋輩でもある。商才もあり、読み書き算盤はもちろん、器用に立ち回ることの上手い男ではあるが、とにかく陰陽なたのあるのが市兵衛は昔、子ども心に嫌いだった。自分たちより歳の幼い丁稚仲間に平気で自分の失敗を押しつけて平然としているような小狡い子どもだったのだ。
 それに比べ、陽太と名乗っていた当時の市兵衛は、男気のある面倒見の良いところがあった。長屋育ちで大勢の子分を引き連れたガキ大将だったこともあり、幼い丁稚を庇ってやることも再々であった。
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