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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第44章 第十六話 【睡蓮】 弐
 お彩は慌ただしく昼飯を終え出てゆく客を愛想よく送り出してゆく。
 その合間にも空の器を盆に乗せて奥の板場に運んでいっては手際よく洗う。その傍らでは喜六郎が真剣な顔で包丁を握っていた。板場に入ると、喜六郎はがらりと人が変わる。いつも見せる温厚そうな笑顔は消え、まさに真剣勝負といった気迫が小柄な体躯全体から発散されていて、迂闊に声すらかけられないといった印象だ。お彩は、いつか喜六郎のような板前になるのが夢であり憧れであった。
 喜六郎の引き締めた横顔を見ながら、お彩は三ヶ月前のことを思い出していた。お彩が吉原の三國屋から戻ってきたあの日、喜六郎は涙ながらにお彩を出迎えた。
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