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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第44章 第十六話 【睡蓮】 弐
 先代の主人六代目市兵衛には三人の娘がいて、長女が市兵衛の妻であった。下の二人の娘はそれぞれ相応の商家に嫁いで、子も儲けている。血筋的にはその子、つまり六代目の孫が継ぐのが順当かとも思えるが、市兵衛の弟たちも分家して呉服商を営んでおり、本家の主人に納まりたい人間は一人や二人ではない。
 それに、現実として当代の市兵衛には、脇腹(実際には嫡出だが) の娘が存在する。先代から仕える京屋の大番頭佐平を初め、京屋の主だった奉公人は、やはり、先代の血筋よりも現在の当主七代目市兵衛の血筋を重んずるのが筋と主張した。つまり、まだ二歳にも満たぬ幼い娘の成長を待ち、いずれ婿を取って跡目を継がせるべきだと唱えた。問題は、やはり、その娘の後見に誰がなるべきかということだ。
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