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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第44章 第十六話 【睡蓮】 弐
 意外にも、市兵衛の味方に京屋の奉公人が立った。殊に大番頭佐平と手代頭の泰助など古参の奉公人が当代の主市兵衛にれきとした娘がいるのだから、その血筋に店の跡目を継がせるべきだとの一貫した意見を終始貫いた。つまり、先代の血筋よりも婿に入った市兵衛の血筋を優先させるべきだと主張したのだ。
 最早、京屋の中に市兵衛を婿養子だと蔑む者は一人としていなかった。最初は奉公人上がりの成り上がり者、先代の娘を色香で誑かしたと侮られていた市兵衛は、いつしかこの十四年の間に、奉公人たちにも京屋の正真正銘の主だと認められていた。事実、市兵衛は先代市兵衛の代より更に商いを手広く行い、京屋の身代を盤石のものにした。その努力を奉公人たちはちゃんと見ていたのだ。
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