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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第44章 第十六話 【睡蓮】 弐
 喜六郎は何事かというように将棋の駒を連想させる四角張った顔を緊張させていた。
「旦那さん、私、京屋に戻ろうと思うんです」
 お彩がひと息に言うと、喜六郎は頷いた。
「大方、そんなことだろうと察しはついていたさ。一昨日、お前が京屋の旦那の話を聞き込んできたときから、多分、こんなことになるじゃねえかと思ってたよ」
 お彩は、深々と頭を垂れた。
「本当に申し訳ありません。突然舞い戻ってきた私を温かく迎え入れて頂いた上に、板前になるための指南までして下さったのに、こんな形でまた出ていくことを許して下さい」
 お彩が涙声で謝ると、喜六郎は笑った。家族を送り出すように親しみとお節介のこもった眼を向けていた。
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