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第45章 第十六話　【睡蓮】　参

　市兵衛が不慮の事故で怪我を負い、意識不明の状態が続いているのを良いことに、見舞いと称して娘のお佐歩を引き連れ、まんまと京屋に戻ってきて、そのまま居着いてしまったのだ。先代の主人の妹はいえ、とうに他家に嫁いだお知歩を京屋の大番頭佐平はけして良い顔をして迎えたわけではない。
　佐平は、お知歩の腹の内は手に取るように判った。市兵衛に万が一のことがあった際には、お佐歩をその後釜に据える気でいるのは明らかだ。お佐歩はお知歩の血を分けた娘とは思えないほど、大人しく控え目な娘だ。お知歩が三十三のときに儲けた末っ子で、今年十九になる。