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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第45章 第十六話 【睡蓮】 参
その日の昼過ぎのこと、お彩は市兵衛に薄い粥を食べさせていた。粥というよりは、重湯と言った方が良いもので、お彩自らが厨房で作り、市兵衛の部屋に運んだ。塗盆にのせた土鍋から白い湯気が立ち上っている。熱くないようにと十分に冷ましてから、木匙で掬い、ひと口、ひと口とゆっくりと寝ている市兵衛の口許に運んでゆく。
市兵衛は眠ったまま、口を非常にゆっくりと動かし、重湯を飲み下した。市兵衛が材木町で予期せぬ事故に巻き込まれてはや十日余りになろうとしているが、今のところ、彼の生命の焔を辛うじて保ち続けているのは、日に三度のこの重湯と水分のみであった。
市兵衛は眠ったまま、口を非常にゆっくりと動かし、重湯を飲み下した。市兵衛が材木町で予期せぬ事故に巻き込まれてはや十日余りになろうとしているが、今のところ、彼の生命の焔を辛うじて保ち続けているのは、日に三度のこの重湯と水分のみであった。