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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第45章 第十六話 【睡蓮】 参
 市兵衛の食事が終わると、お彩は盆にのせた椀や鍋を持って、再び立ち上がった。もう暑い時分とて、縁に続く障子はすべて開け放している。縁づたいに廊下が延びていて、お彩は廊下を辿って厨房の方に戻りかけた。
 廊下からは庭が見渡せる。流石に江戸随一の暖簾を誇るだけあって、京屋の庭は広く贅を凝らしたものであった。四季折々の花が咲き乱れ、小さいながらも池や築山まで配されている。
 そろそろ梅雨も明ける頃であった。池の方から蛙がしきりに鳴く声が低く響いている。紫陽花が深い蒼色に染め上がっているのが、陰鬱な梅雨の合間の曇り空の下でひときわ鮮やかに際立っている。
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