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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第45章 第十六話 【睡蓮】 参
 まだ蕾ではあったけれど、池には睡蓮が浮いているらしい。今日は生憎、朝からずっと曇り空がひろがっていたが、灰色の風景の中で庭の緑が清々しく見える。お彩はひとしきり庭を眺めた後、歩き出そうとした。
 その時、庭の方から笑い声が響いてきた。
 幼い子どものものらしい声と、追いかける女の声が重なり合い、近づいてくる。
「お嬢さま、そんなに走っては転んでしまいますよ」
 たしなめる声に続いてパタパタと駆けてくる小さな足音。お彩の視線は吸い寄せられるように、ふいに姿を現した童女に注がれた。
 御殿鞠をあしらった紅い着物に、紅い鼻緒の草履、色白の整った目鼻立ちのその子は、去年の秋に別れたきりのお美杷であった。
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