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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第7章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の壱
 そう言い聞かせてくれた女の言葉が優しく少年の背中を押した。自分の今日があるのは、その女のお陰なのだと男は言った。お彩は和泉橋のたもとで満開の桜花が咲き誇る中、男からその話を問わず語りに聞かされた。
 そして、お彩自身も男のその言葉で救われた。今、自分が帰る場所は「花がすみ」しかないのだと、ひとたび父の許を離れて一人で立派に暮らしてゆくのだと決意したからには父の許には戻れないのだと我が身に言い聞かせた。
「急に訪ねるものだから、きっと、おとっつぁん、びっくりするわ」
 お彩は伊勢次を振り返ると微笑んだ。
 そのときのことだ。腰高障子の向こうから突如として声高な男の声が聞こえてきて、お彩は無意識の中にその場に立ち尽くした。
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