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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第7章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の壱
 間違いない、お彩がここに来たのだ。そして、考えたくもないことだが、恐らくは彦七と自分の話を聞いてしまったに相違なかった。さもなければ、お彩が折角持参した桜餅
を放り出して去るはずはなかった。
―よりにもよって、どうしてこんなときに―。
 これまでおよそ誰かを恨んだり憎んだりしたことのない伊八だったが、今日生まれて初めて運命を呪った。
 彦七はお彩の伯母お縞の良人であった。彦七と伊八の会話から推量したお彩の考えは計らずも的中していたのだ。彦七は伊八よりは数歳年上のはずだが、久しぶりに再会した彼は、記憶の中の彦七とは違う人のように老け込んでいた。彦七を見たのはお彩が彦七の女房お縞にさらわれるという事件『はまなすの子守唄―夜泣き蕎麦屋お絹控帳―』参照 が起きた時、ただ一度きりだった。あの折り、お縞は彦七の許を飛び出していて、彦七はいなくなった女房の行方を追っていた。
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