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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第8章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の弐 
 お彩は言葉を失った。
「とにかく、あいつだけは駄目だ」
 伊勢次はまるで我が事のように断じた。
「お彩ちゃん、俺はお彩ちゃんがその気になるまで待つよ。たとえ何年かかったって構わやしねえ。どんなに時間がかかっても待つ」
立ち上がる伊勢次の背中をお彩はボウとして見つめた。
「何だかこれじゃあ見舞いに来たのか、お彩ちゃんの具合を悪くしにきたのか判らねえや」
 伊勢次が苦笑混じりに言う。その顔は既にいつもの穏やかな伊勢次に戻っている。
 去り際、伊勢次はお彩が上掛け代わりに使っていた着物を取り上げ、そっとその肩に羽織らせた。それが伊勢次なりの今の精一杯の心であると理解はできる。
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