この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第8章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の弐
その時、唐突にお彩の瞼に一つの光景が浮かんだ。その記憶の断片は長い間、お彩の中の記憶の海の底で眠っていた。が、伊八の言葉によって今、封印されていた記憶の扉が開き、お彩の脳裡にある風景が蘇ろうとしていた。
人知れずひっそりと横たわる蓮池、池のほとりに建つ辻堂、池の上を群れ飛ぶ赤トンボ。夕焼けに染まった懐かしい風景は、幼い日、母に連れられていった小さな村で見たものだった。お彩の中で様々な風景が立ち現れ、消えてゆく。最初に浮かんだのは一面茜色に染め上げられた夕景色、更に辻堂の近くにあった誰のものとも知れぬ墓であった。道端の石と間違えそうなほど小さな苔むした石の前で、母は跪いて長い間手を合わせていた。
あれは一体、誰の墓であったろうか。幼いお彩は母に訊ねてみようとしたけれど、結局果たせないままになった。
人知れずひっそりと横たわる蓮池、池のほとりに建つ辻堂、池の上を群れ飛ぶ赤トンボ。夕焼けに染まった懐かしい風景は、幼い日、母に連れられていった小さな村で見たものだった。お彩の中で様々な風景が立ち現れ、消えてゆく。最初に浮かんだのは一面茜色に染め上げられた夕景色、更に辻堂の近くにあった誰のものとも知れぬ墓であった。道端の石と間違えそうなほど小さな苔むした石の前で、母は跪いて長い間手を合わせていた。
あれは一体、誰の墓であったろうか。幼いお彩は母に訊ねてみようとしたけれど、結局果たせないままになった。