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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第8章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の弐
お彩は溢れる涙をぬぐった。
「おっかさんを手込めにした男は、どうしてるの?」
お彩にとっては憎い男であった。血縁上の父親であることは否定しようもないけれど、死んでも「父」だとは認めたくない人間である。
伊八が真顔で首を振った。
「自分の父親をそんな風に言うもんじゃねえ」
「でも―」
お彩が言いかけるのを遮るように伊八は言った。
「良いから、まあ聞きなさい。お前の実のおとっつぁんは、お絹を―いや、正確に言えば、お絹とお前を庇って死んだんだよ。当時、おっかさんの腹にはお前がいたんだ。そう、あれは、おっかさんが江戸から逃れて近在の村に隠れ住んでいた頃の話だ。お前の実の父親は、おっさんがならず者に匕首で刺されそうになったのを自ら身を盾にした。そのときに受けた傷が生命取りになったのさ」
「おっかさんを手込めにした男は、どうしてるの?」
お彩にとっては憎い男であった。血縁上の父親であることは否定しようもないけれど、死んでも「父」だとは認めたくない人間である。
伊八が真顔で首を振った。
「自分の父親をそんな風に言うもんじゃねえ」
「でも―」
お彩が言いかけるのを遮るように伊八は言った。
「良いから、まあ聞きなさい。お前の実のおとっつぁんは、お絹を―いや、正確に言えば、お絹とお前を庇って死んだんだよ。当時、おっかさんの腹にはお前がいたんだ。そう、あれは、おっかさんが江戸から逃れて近在の村に隠れ住んでいた頃の話だ。お前の実の父親は、おっさんがならず者に匕首で刺されそうになったのを自ら身を盾にした。そのときに受けた傷が生命取りになったのさ」