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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第9章 第四話 【ほたる草】 一
 むろん、お彩自身、最初は己れの内に芽生えた想いがそも何であるのかをけして認めようとはしなかった。犬や猫だとて自分の親に懸想をするなぞ聞いたことがない。血を分けた父を愛してしまった我が身がひどく呪わしく汚らわしい存在に思え、お彩はその恋慕をひた隠しにしていた。
 だが、父と狭い四畳半ひと間で日がな一緒に過ごすことに耐えられず、とうとう家を出てしまったのである。甚平店からそう遠くない、やはり粗末な長屋で一人暮らしを始めたお彩は、直に近くの「花がすみ」の仲居の仕事を見つけて働くようになった。男と知り合ったのは、丁度その頃であった。
 恐らくお彩が男に魅了されたのは、自分の中に抱えるもの―壮絶なまでの孤独と哀しみを男の中にも見たからだろう。そうして気が付けば、いつしか、お彩は父よりも男のことを想う時間が多くなっていた。
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