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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第1章 第一話―其の壱―
 お彩は伊勢次に言われたとおり、心張り棒をきっちりと立てかけ、草履を脱いで部屋に上がった。紙包みを開くと、紅に染まった紅葉の形をした饅頭が五つ行儀良く並んでいる。その一つをひと口頬張ると、上品な甘さが口中にひろがった。
 お彩の瞳に大粒の涙が溢れる。もし伊勢次がその涙を見たら、大慌てで言うに違いない。
―お彩ちゃん、俺、塩でも入った饅頭を間違って買ってきちまったかな。
 伊勢次は、そういう男なのだ。
―伊勢次さん、ありがとう。
 ただの客にすぎない伊勢次がこうしてお彩の身を案じて訪ねてきてくれた。その気遣いが今はただ、ただ心に滲みた。
 お彩は涙を流しながら、ゆっくりと饅頭を食べた。
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