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第2章 第一話－其の弐－

　器を洗い終え、再び表に戻ってきたときのことだ。表の戸が荒々しく開いて、男が飛び込んできた。驟雨に遭って、難儀していたものだろう。全身濡れていて、頭から雫を滴らせている。お彩は気の毒に思い、奧に引っ込んで乾いた清潔な手拭いを取ってきた。
「良かったら、これをお使い下さいな」
　男が顔を上げ、お彩を見つめる。刹那、お彩は息を呑んだ。何もかもが初めてあの男を見たときと全く同じだった。
　そう、今、他ならぬあの男がお彩を見つめている。手を少し伸ばせば互いに触れそうなほど近くに、互いに息遣いすら聞こえそうなほど間近に。一瞬、お彩の回りの時間が停止した。お彩は物を言わずに、ただ男を見つめた。
―あなたは誰。
　お彩はふいに出かかった問いを呑み込んだ。男の端整な顔に淡い微笑がひろがった。
「ありがとう」