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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第12章 第五話 【夏霧】  其の壱
「今日のところはこれで帰ります。旦那さん、あの時、私がお暇を貰ったのには理由があったのです」
 すると、喜六郎が小さく首を振った。
「今更聞いたところで、どにもなりはしねえさ」
 おきみの顔が一瞬哀しげに歪んだ。おきみは何も言わず頭を下げると、承平を連れてにげるように店を出ていった。
 喜六郎もまた黙り込んだまま、再び板場へと戻っていった。お彩は喜六郎の心中が案じられてならなかった。どう見ても訳ありの女が突然現れ、しかも連れている子どもは他でもない喜六郎の子だという。とすれば、お彩の想像どおり、かつて喜六郎とおきみという女は男女の仲にあったのは間違いない。
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