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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第13章 第五話 【夏霧】  其の弐
 お彩の食い入るような視線に、おきみは避けるようにそっとあらぬ方を向いた。
「ええ、承平は喜六郎さんの倅なんかじゃござんせん。あの日、喜六郎さんに逢ったのは三年ぶりでした。あの人があんな不始末をしでかしたあたしを許してなんぞくれるはずがないと思いながらも、あたしは心のどこかで期待してた。甘かったんですね。もしかしたら、あの人があたしを待っていてくれるんじゃないかと、あたしの顔を見たら、もう一度やり直そうと言ってくれるんじゃないかという考えがあったんです」
 お彩は、おきみの話に黙って耳を傾ける。武家の令嬢らしい若い娘が二人の傍を通り過ぎ、ゆっくりと橋を渡っていくのが見えた。
 娘の姿が消えると、ただ川の流れる音だけが低く響いてくる。
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